にわとりごや

継続は力なり

資源不足【短編小説】

 資源不足

 

 とにかく現代は大量生産・大量消費の時代であるから、まるで細胞が入れ替わるようにして、次々と新しいものが生まれ、そして古いものは消えてゆく。

 地球上の物質には当然限りがあるから、新しいものを生み出すには、廃れてしまった古いものをリサイクルして資源を回収しなければならないのだ。

 ここで、資源不足に悩むとある現場を見てみよう。

「おうい、きみ、もっと、こいつの生産スピードを上げることはできないのかね? 生産速度が需要に見合っていないじゃあないか」

 真っ赤な顔をした鬼上司が現場監督を怒鳴りつける。現場監督は苦笑いを浮かべ、

「いやあ、こちらとしても全力を尽くしているんですがね、生産技術はともかくとして、肝心の資源が足りないんです」

「業者から、毎日毎日山のように、廃棄されたスクラップが届くだろう」

「ハァ、それをリサイクルしても足りないんですよ」

 技術はあるのに資源がないというのは、なんとももどかしい。鬼上司は溜息をついてがっかりしたが、視界の隅に、うず高く積もったゴミの山を見つけると、ああいいことを思いついたと言わんばかりに、

「きみ、あのゴミ山から資源を取り出すことはできんのかね」

「エエッ、あのゴミ山からですか?」

 現場監督はギョッとして驚いた。普段届くスクラップは、廃棄されたものといっても元の製品は良質なものだ。しかしあのゴミ山は、元の製品もそんなに質の良いものではない。

「できないこともないんですが、いつも使っているものよりも、あれは純度が低いですし、質もよくありません。代用できないこともないですが、製品の質が落ちてしまいます」

「なあに、今は大量生産・大量消費の時代じゃあないか。多少質が落ちたところで、そんなに問題はない。それより、需要に合わせた生産速度を出すことのほうが大切だ。サァ、さっさとやりたまえ」

 鬼上司はそう告げてさっさとどこかへ行ってしまった。残された現場監督は、上司の命令には逆らえないので、そのゴミ山から取り出した資源を使うしかないのだった。

 なんだか、自分の手で世界の質を落としているような気がして、彼は溜息をついたが、しかし仕事だから仕方がない。彼は、その虫どもから回収した魂を手にとって、それを輪廻の中へ放り投げた。

 彼らの見下ろす人間世界のどこかで、赤ん坊がおぎゃあと泣いた。